研究部会メーリングリスト通信 2019年12月号

研究部会メーリングリスト通信 2019年12月号

 

<今月のデータ  〜 セアカゴケグモどうなった?>

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セアカゴケグモ

 初めてセアカゴケグモが見つかって大騒ぎになったのは1995年のことですが、その後マダニやヒトスジシマカ等の感染病媒介虫という強力なライバル?が現れ、それからアルゼンチンアリやヒアリという正統な?ライバルも登場することにより、この虫の存在感がすっかり薄くなったこのごろです。当初、写真のような黒と赤の姿がかなり悪役的なこともあり、セアカゴケグモを「猛毒グモ」等と呼んで強力に推していたメディアも、「殺人」の肩書をつけたマダニやヒアリよりキャラクター的に弱いと看たのか、最近では全くといっていいほど話題にしなくなりました。

 いや、それが日本からいなくなって終息したからならまことに結構なのですが、果たしてどうなんでしょう。ということで、その後どうなっているのかを調べてみました。調べたのはクモが見つかった都道府県の数の推移です。1995年に大阪府で初認されてから18年後の2013年から、過去の累積情報も含めて確認済みの都道府県の数を並べてみますと…

 2013年:25、2014年:32、2015年:37、2016年:41、2017年:43、2018年(8月現在まで):44、という感じになりました。これは国立環境研究所の侵入生物データベースから拾った数字です。ここに掲載されている最新の分布図は下図のようになります。

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セアカゴケグモの分布図(国立環境研究所HPより)

 つまり、2018年の時点で確認されていないのは長野と秋田、青森の3県だけということですね。この調子でいくと早ければ2020年までには「全国制覇」してしまいそうです。終息どころか、もはやお馴染みの虫になっているようですね。ところで、猛毒グモなのでさぞかし咬まれた被害者は多いのかと思って調べてみると、1995年以降分布をさらに拡大して、今は府内のほぼ隅々に生息している大阪で、2019年3月までの累積被害者は…93人です。死亡者はいません、全国的にも。咬まれるのは年に3~4人のペースになりますが、猛毒というには割と穏やかな状況ですね。これはある意味当然で、確かに強力な神経毒ですがクモ1匹が持つ毒量が微量なので死に至る可能性は非常に少ない訳です。単純に毒量で考えれば元々国内のススキ原に生息するカバキコマチグモの方が多いでしょう。それに、棲んでいる場所が雨水溝の中だったり墓石の隙間だったりしますので、わざわざ蓋や石を素手で持とうとしない限り咬まれる状況にはならないでしょう。

 ということで、セアカゴケグモは今や定着するかどうかの段階ではなく、もう既にしっかりと定着しているのですね。国民のどのくらいの方がそれを認識されているんでしょう。そうすると、今話題になっているヒアリもひょっとして同じ道をたどる? 外来生物の分布現況については国立環境研究所の他に、環境省等でも随時発表していますので、気になるようでしたらチェックしましょう。くれぐれもメディアに頼っちゃだめですよ。

 

<生物技術者が見た風景 〜 穴に棲むベトナムのカエル>

 外国で生きもの調査をした経験のある方はあまりいないと思いますが、幸運にも私はベトナムで生きもの調査に従事したことがあります。ホーチミン市近郊の工業団地造成地で11月に調査していたときのこと。田舎の建物の脇、地中に向かって大きな穴が幾つも開いている場所がありました。ベトナムでは11月は乾季に入り、土は硬くカラカラに乾いています。その穴の大きさと家のそばということから、これはネズミ(たぶんドブネズミ)の穴だなと確信しました。で、穴をのぞきこんだところ中にいたのは…

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穴の中にカエルの顔が…

 なんとカエルです。何でこんな乾いた場所に?と棒でつついてみたら外に出てくれました。

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こんなカエルでした

 たぶんアカガエル科かな…とは思いますが、この国ではカエル図鑑など無いので種類は分かりません。現地の方に聞くとどこにでもいるカエルだそうですが食用にはしていない模様。市場ではヒキガエルよりも大きなカエル(ウシガエルではない)が普通に生きたまま売られています。どうも自力で掘ったのではなく、ネズミが掘った穴を乾季の休眠(夏眠?)場所として利用しているようで、雨が降り周りに水が浮いた状態になると出てきて活動するのでしょう。ベトナムでは北のハノイと南のホーチミンの2箇所で調査したことがありますが、どちらも土壌は粘土質で降った雨は地中に浸み込まず、地上はたちまちのうちに池みたいになっていました。

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ホーチミン市近郊の田舎風景

 ついでに、乾季にホーチミン市近郊の田舎で見られる風景を1枚。うーん、やっぱり違和感しかない風景ですよね。流れている川の水は澄んでいてとてもきれいでした。

 

<いきもの写真館No.103 コガモ

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コガモ

 大学生のころにバードウォッチングにはまり、その後仕事でも調査で鳥を見続けてはや40年…の私ですが、40年前と現在とでは身近で見られる鳥の種類がずいぶんと変わりました。町の公園で冬にやってくるカモたちの顔ぶれもそうですが、コガモは昔からずっと変わらず今も普通に見られる種類です。カルガモに比べるとずっと小さく、顔が緑と茶色のツートンカラーになっているあいつです。あのピリピリと鈴が鳴るような声もまた、いいんですよねー。しかし、昔はいっぱいいたオナガガモとか、いったいどこに行ってしまったんでしょう?

 

 

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邑井 良守