研究部会メーリングリスト通信 2020年1月号

研究部会からのお知らせ

 2016年よりブログへの投稿を中断していたFBN会員向けのメーリングリスト通信をリニューアルして投稿再開します。以前と同じく、今後毎月投稿して参ります。

 

研究部会メーリングリスト通信 2020年1月号

<生物技術者が見た風景  〜 森の中に大福モチ?>
 早春に山歩きをしていると、池や地下水の湧き出し、池塘といった水の中を必ずのぞき込むことにしています。カエルやサンショウウオの卵隗が見つかるからです。水の中に浮かぶこれらの卵隗、種によって形は様々なんですが、これまでに私が一番印象に残っているのは断然クロサンショウウオの卵隗です。両生類の卵はゼラチン状の物質に保護されていて、それは普通透明なんですがクロサンショウウオの場合これが白い。たまに半透明のものが見つかると、ブドウの房のように中の卵が見えていて、まるで熟して割れたアケビの中を見ているみたいです。写真①は東北の山岳部を歩いているときにブナ林の中で見た卵隗ですが、なかば水が干上がった状態なので白くてブヨブヨした感じが何ともいえません。一見した時の印象が「森の中にたくさん大福モチが落ちてる!」でした。私が住んでいる金沢では、夏にあんこを生麩で包んだ麩饅頭というお菓子が出回りますけど、これも見た目がそっくりです。キタサンショウウオの卵隗も虹色に輝いていて好きですが、見つけた時のインパクトからいえばこちらに軍配があがりますね。東北で見る卵隗は白いやつばかりなのに、新潟から北陸にかけての山岳部では透明なものも結構見られるようです。まだ出会えてないので、今年は一つ真面目に探してみましょう。

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写真①クロサンショウウオの卵隗

<生物技術者のための用語集 〜 諫早湾干拓問題>
 諫早湾干拓事業は、有明海の西側に位置する長崎県諫早湾の湾奥部を潮受堤防で閉め切り、その内部に調整池と干拓地を造成する、いわゆる複式干拓事業で、洪水・高潮などに対する防災機能の強化と農地の造成を目的として1950年代から農林水産省が事業を進めてきた。事業の必要性に対する疑問と、干潟に生息するムツゴロウや渡来するシギ・チドリ類やカモ類等の自然環境に対する影響の懸念から、地元の自然保護団体等が反対運動を展開していたが、1997年、全長7kmに及ぶ潮受堤防が完成し、湾奥部の閉め切りが行われた。⇒EICネット環境用語集より抜粋
 その後の経過は以下の通り。
2000年の有明海ノリ凶作により干拓事業が原因との議論が発生
2002年水門開放による調査を開始したが原因不明として2004年に調査を終了。
・2002年から漁業者が開門と被害補償を求め国を提訴、被害補償に関しては福岡高裁で勝訴。
・開門についても2010年福岡高裁で勝訴、当時の民主党政府は上告を断念。
・一方、干拓地で営農していた農民から開門により塩害受けると開門差し止めを2011年に提訴、2013年長崎地裁が開門差し止めを仮処分、2017年最終的に差し止め決定。
・開門の是非につき正反対の判断が出たことに対し、最高裁は「どちらも有効」と意見。
・これまた一方、2014年に自民党政府が被害補償と開門強制執行について異議の提訴、裁判所は和解を勧告したが決裂、2018年に福岡高裁で勝訴。
・2019年6月に最高裁にて政府の勝訴、漁業者側の敗訴が確定。
・2019年9月13日、最高裁判所は国の訴えを認めた2審の判決を取り消し、審理のやり直しを命じる。
…という感じで延々と続いています。

生物技術者のひとりごと:
2010年に国が上告断念してからグダグダになったという感がありますね。結局は開門しないまま漁業補償で慰めながら現状維持という情勢に向かっているようです。
ところで干拓事業の影響で有明海全域での漁業資源の減少、つまりは海洋生物資源の減少、生物多様性の低下が起こっていることは幾つかの科学データで明らかです。生きもの好きの人間にとっては、開門して諫早湾に海水が循環するようになれば改善する可能性がありますから、そちらを支持したいところです。ですが、生物技術者的な目で見れば莫大な金をかけた公共事業で今さら止められないということも理解できるし、元々は大雨等の災害対策も兼ねた事業であることも無視できません。結局は国民のため、人命第一や水害対策、農業振興といった名目の前には、生物多様性の維持や自然保護、景観保全、文化の継承といった名目が勝つことはできない、といったところでしょう。しかしこの果てしない裁判争い、いつまで続くんでしょうか。

<いきもの写真館No.104 コジュケイ
 20世紀になってから日本に持ち込まれた外来種で、関東平野の雑木林では必ずといっていいほど出会える鳥ですね。藪の茂みの中で何やらガサゴソ動いているものを見かけたら、かなりの確率でそれはコジュケイでしょう。石川県ではとんとお目にかかれませんが。写真②は一昔前のトレイルカメラで撮ったもので、フラッシュの光に羽の色彩が鮮やかに浮かび上がっている点が気に入ってます。親子が仲良く写っているのもGood。

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写真②トレイルカメラで撮影したコジュケイ

<今月のお知らせ>
※研究部会報第7号を編集中です
 ただいま2019年度の研究部会報第7号を編集中です。2月1日に予定している総会の日にはちょっと間に合いませんが、2月中に編集終了して3月に会員の方々へ順次郵送する予定です。
※日本クマネットワーク(JBN 富山地区)の白石俊明さん(立山カルデラ博物館)より「令和元年度のクマ出没から学ぶ~市街地への出没を防ぐための勉強会~」開催のご案内をいただきましたので、ご案内の文章を添付します。

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クマ対策勉強会開催案内

(白石さんからの紹介メッセージ)
 JBNの小坂井氏・新潟大の箕口先生が中心となり、3/14に新潟県庁で「クマ市街地出没」をテーマとした勉強会が開催されます。勉強会(第一部)は一般の方を参加対象としています(勉強会案内 別紙1)。可能な方は、是非、ご参加ください。
また、クマ対策に関心のある方・対策の協力者や支援者への開催通知も、ぜひぜひ、お願いします。

 

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この通信の内容に関する問い合わせは以下にお願いします。
yoshimori.murai@gmail.com
邑井 良守