生物技術者連絡会メーリングリスト通信 2020年12月号

 

<生物技術者が見た風景 〜 陵墓の森>

 奈良県に「山野辺の道」という散歩道がありまして、10年ほど前から気に入って何度も歩きに行っています。天理市から桜井市に至るコースですが、20数キロほどの距離でゆっくり歩いても半日あれば歩きとおせるのが私にとってはちょうどいいんですよね。周りの風景も変化に富んでいて、特に中間あたりで大きな古墳を幾つか横に眺めながら歩くことができるのは、ここだけの景観と言っていいでしょうね。写真はその古墳のひとつ、行燈山古墳(一般的には崇神天皇陵として知られています)を眺めたものです。

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北側の陵墓後円部を見る

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陵墓後円部の斜面を見る

 生物技術者とは言え植物に関してはからっきしの私ですが、商売にしていた以上最低限のことは知っておかなくちゃということで、植生学を少しかじったことがあります。そのときに刺さった言葉のひとつに「潜在自然植生」がありました。要するに人間の影響とか自然災害とかで変えられなければ、もともとここにあるべき植生はこれなんだ。ということで、それが森林だったら「極相林」とたぶん同義なんだろうと理解していました。でも、今どき日本国内の平地でそんな場所、特に人間の影響が全く及んでいない場所なんてあるはずないよね、とも思いました。で、この陵墓の風景を見た時にはたと思ったわけです。ひょっとしてこれが、日本国内の平地では最も「潜在自然植生」に近いものなんじゃないかと。何しろ造成されてから手付かずで1500年くらい経ってますからね。調べてみるとこの地域で考えられている「潜在自然植生」はヤブツバキクラス域のアラカシ-ウラジロガシ群落およびアカガシ群落だそうで、つまりはカシ類の優占林?でしょうか。写真を見る限りではまるっきり常緑樹林なので、本当にそんな感じですね。ここは禁足地で、盗掘者等の不届者もいなかったとすれば過去に入って調査した記録は2回のみ。私的には森の中に入って言われている通りの「潜在自然植生」になっているのか、是非確かめたいところですね。

 

<生物技術者の事典 ~ 日本海側気候>

 北海道および本州の中央分水嶺から日本海側に分布する地域の気候区分を日本海側気候という。特に冬季には、北西からのモンスーンが日本海を渡る際に暖流の対馬海流上で水蒸気を蓄えて山脈にぶつかるため、基本的に降雨(降雪)日数が多い。多雪地帯として知られる地域の多くがこの気候に属する。沿岸部では秋季から冬季に発雷日数の多いのも特徴で、日本全国では年間の発雷日数が顕著に多い地域である。北陸・山陰では冬季の降雪が多く最も降雨日数が多い月が冬に集中する一方、夏季は降雨日数の最少月となり気温も比較的高くなる。

 

生物技術者のひとりごと:関東出身の方が金沢に来て冬になるとびっくりすること三つ。一つめは「空が鉛色で雷の音がでかい⁉」、二つめは「毎日が狐の嫁入りだ⁉」、そして三つめが「冬なのに服が乾かない⁉」。雪国というイメージが強いかと思いますがさにあらんや、最近は積もっても10~20㎝程度、たいていは雨の日だったりします。それにしても冬は雨が多く晴れは少ない。どのくらい少ないのかと思って、前に住んでいた千葉県佐倉市金沢市の気象データから月の平均晴天日数を調べてみたら…

 

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千葉県佐倉市金沢市の月別平均晴天日数/2018年より過去30年間

冬の金沢市で晴天といえる日は月に2~3日ですよ。関東の人がいきなり冬に引っ越して来たら、気がめいってしまうこと間違いなし。それに夏も涼しくない。気温は平気で30℃超えしますが、ただカラッと乾いているのが特徴。「冬乾燥して夏蒸し暑い」関東とは真逆なのですね。関東では冬に売れるのは加湿器、ですが金沢では除湿器です。

 

<いきもの写真館No.115 アトリ>

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 冬にやってくる山鳥の多くは茶褐色系の地味な色彩ですが、その中にも割と色どりのある種類が幾つかいます。前に紹介したジョウビタキなんかその最たるものだと思いますが、このアトリもよく見ると結構良い色合いをしてますね。金沢市の海岸沿いにある、自然林の緑地公園で見かけたときに撮ったものです。日本海を渡ってきた鳥たちが最初に息をつく場所としてちょうどよい位置にあるんでしょうね。この公園は冬になると多くの種類が見られてたいへん楽しい場所です。海岸べりにあるので積雪もないですし。森の間を速く動いていて撮るのは大変だったりしますけど。

 

<研究部会からのお知らせ>

 毎年、生物技術者連絡会の会員向けに発刊している「生物技術者連絡会研究部会報」ですが、今年はコロナによる活動制限の上に事務局の移転等が重なりまして、記事を集めることができませんでした。残念ながら2020年度号(第8号)については一時休刊といたします。来年以降は継続して発刊する予定です。ご了承願います。