H21.11.06 小笠原・沖縄イベント

<研究部会の活動報告>
*書籍プロジェクトの中間報告
 来年の1月に完成をめざしている書籍ですが、各担当者順調に執筆が進んでおりま
す。
ここでは、テキスト文章のみですがその中身をちょっとだけご紹介していきます。
最終回として、邑井が執筆中の中から第?章の冒頭部分を。

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 第?章では獣毛が同定できる状態にするまでの手続きについて紹介した。
第?章からは、実際に獣毛を同定する手法や手順について解説してゆく。
獣毛は肉体の一部だが、他の組織・器官と比べると腐ることがなく、天候気象が変動
することにより形状が変わったり消失したりすることもない。
したがって、乾燥した状態に保てば動物に食われない限り何十年も保管することがで
きる。
その保存性は、エジプトで出土した数千年前のミイラの付着頭髪から標本を作って
も、昨日抜いた自分の頭髪とあまり見分けがつかないくらいのものなのである。
このことは、獣毛で得られた情報について後々まで検証が可能であることを示してい
る。
獣毛はフィールドに残された動物の様々なサインから得ることができる。
獣毛を得られる可能性が高いフィールドサインとしては、糞とペリット、食痕、獣道
や巣穴に接する植物等がある。
またフィールドサインに頼らず、ヘアートラップを仕掛けることにより積極的に獣毛
を採取する方法もある。
本章ではまず、糞とペリットから検出された獣毛の同定法や手順について解説する。
これらから見出される獣毛はその動物が食べた餌だったか、もしくはグルーミング行
動により飲み込んでしまったその動物自体のものかのどちらかになる。
前者だとキツネやテン、フクロウといった大型から中型の種が出したもので、ネズミ
モグラ等の小型哺乳類が対象になる場合がほとんどのはずである。
後者だと中型哺乳類のほぼ全種が対象となる。
本章の1では、糞とペリットから検出された獣毛を同定して実際にデータとしてまと
めた事例を紹介した。
次いで2では餌動物である小型哺乳類の同定法を、3ではグルーミングにより糞から
検出される可能性のある中型哺乳類の同定法を紹介している。
本書を出すまでに集めたデータをできる限り使っているが、日本に生息する哺乳類に
関する全てのデータが揃っているわけではない。
このため2で対象とした小型哺乳類は関東地方の平野・低山に棲む種類に限定してい
るし、3では対馬諸島で見られる中型哺乳類に限っている。
全ての哺乳類を網羅する形でまとめることができるまでは、まだ多くの時間が必要で
ある。
本書が版を重ねるたびに徐々にデータを充実させていく予定なので、暖かく見守って
いただきたい。
(以降、略)

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<生き物豆知識〜カマドコオロギ>
コオロギ類の多くは秋に土の中か植物の茎や枝に卵を産んで一生を終えて卵のス
テージで冬を越すという生活環ですが、中には成虫や幼虫が休眠して越冬する種類も
あります。
ところが、休眠を行わず冬でも活動して発育を続けるコオロギがいます。
本州以南にいる亜熱帯原産のカマドコオロギは、農家のかまどやいろりの周り、都
会地のそば屋・豆腐屋・煮豆屋・銭湯などに棲みついて、冬の夜でもチリチリチリ…
と鳴きます。
近年の燃料革命によりかまどやいろりが次第に減ってきたため、すみかを奪われつつ
あります。
しかし、カマドコオロギは動物園の熱帯動物舎や温泉地の配湯管の周りなどに新天
地を見出し、今も繁殖し統けています。
根強い生命力です。
カマドコオロギの成虫の体長は約1.5センチ、淡褐色で体形が扁平なため、狭い隙間
に潜りこんで群らがって暮らすのに適しています。
このコオロギには独特のにおいがあり、そのにおいのついたところに成虫と幼虫が集
団をつくります。
それは遠縁にあたるゴキブリに似た習性です。
ゴキブリと同じように集団の形成に「集合フェロモン」が関与しており、集団生活は
発育促進の役目を果たしているのでしょう。
カマドコオロギは鳴き声による会話とフェロモンのにおいによる会話とをあわせも
つ昆虫なのです。

<ワンポイント環境問題〜湖沼の水質改善>
琵琶湖・中海・宍道湖の4湖沼では水質が悪化傾向にあるとの結論が出されまし
た。
かつては産業排(廃)水が最大の汚染源とされていましたが、昨今では厳しい規制と
企業側の努力で徐々に改善されつつあるのに対して、
こうした水質悪化の大きな原因の一つに、私たちの日常生活から流出している「汚水
処理されていない生活系の雑排水」の流入聞題が指摘されています。
特に台所排水がもたらす害は大きなものがあります。
これまでにも、揚げ物をした油をそのまま流すことが湖沼汚染につながることが指摘
されました。
しかし、近年では固形化したり紙で拭き取るなどの後処理が普及し、油をそのまま流
すことは少なくなっています。
そういう中で、意外と見過ごされているのが「米のとぎ汁」です。
米のとぎ汁は、脂肪分や窒素・リンを多く含んでおり、しかも毎日発生してそのま
ま流されます。
それが湖沼でのヘドロや赤潮発生の大きな原因となっています。

*<生き物豆知識>と<ワンポイント環境問題>の掲載情報は、イカリ消毒株式会社
環境保健情報室の協力によりイカリ消毒(株)発行の月刊「クリンネス」から提供さ
れております。
この雑誌についての詳細は下記URLにどうぞ。
http://www.ikari.co.jp/ 月刊「クリンネス」編集担当:大谷

<いきもの写真館>
 ここでは、特に私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介します。
第13回はオオカマキリです。
秋の庭の木では、産み付けられたカマキリの卵をよく見ますね。
家の周りでよく見かける大きなカマキリにはチョウセンカマキリと、このオオカマキ
リの2種類います。
翅の模様がちょっと違うだけで見分けるのはなかなか難しい・・・

<研究部会からのお知らせ>
森林総研の川上さんからのお知らせです。
なかなか面白そうなイベントです。

(以下、転載文)
ご無沙汰しております。
森林総研の川上和人です。
本日は、小笠原・沖縄の外来種管理に関するシンポジウム開催についてお知らせいた
します。

小笠原諸島では外来種問題に関する多様な研究、事業が精力的になされています。
そこで、同じく外来種問題を抱える沖縄や海外の専門家による発表を交え、外来種
理について多角的に議論するためのシンポジウムを開催いたします。
小笠原の最前線で活躍する研究者達の講演をまとめて聞くことのできるまたとない機
会となると思います。
世界自然遺産への登録推薦という小笠原にとって大きなイベントを控えたこの時期で
すので、是非皆さまにもご参加いただき、
外来種管理の方向性について議論をいただければと思います。

本シンポジウム開催について、関係の方々にも広くお知らせいただけると幸いです。
事務局の不慣れから、お知らせが大変遅くなりましたことを、お詫びいたします。

下記サイトからは、川上渾身のポスターもダウンロード可能です。
URL: http://www.ffpri.affrc.go.jp/symposium/FFPRI-sympo/2009/Alian/200912
18sympo.html

皆様のご参加を、心よりお待ち申し上げます。

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国際シンポジウム
「南の島のエイリアン〜小笠原・沖縄の外来種管理〜」

期間: 12月18日(金)、19日(土)
場所: 東京大学農学部
主催: (独)森林総合研究所

 人間は様々な物資を世界各地から交易を通じて入手していますが、他方ではその交
易に便乗して様々な生物が世界を旅しています。
そのため、人間が活動している以上、外来種問題は避けられない環境問題です。
小笠原・沖縄は、島という特殊な環境のため、重大な外来種問題を抱えています。
同時にこの地域は、国内で最も対策が進んでいる場所でもあります。
特に小笠原諸島世界自然遺産への登録推薦がされており、広範囲の対策事業が進め
られています。
 今回は海外の研究者を交えて、島における外来種問題・管理対策を紹介し、今後の
展望についての議論を行います。
1日目は『Alien vs. Researcher』と題して研究者向けに、2日目は『南の島のエイ
リアン』と題して一般の方も含めた議論を予定しています。
最先端の対策と問題について、ぜひ一緒に考えてみませんか。

URL: http://www.ffpri.affrc.go.jp/symposium/FFPRI-sympo/2009/Alian/200912
18sympo.html
問い合わせ先: Alien@ffpri.affrc.go.jp
029-829-8257(川上)/ 8251(岩井)

          1. プログラム+++++

Alien vs. Researcher』

日時:12月18日(金) 13:00〜17:00
場所:東京大学農学部弥生講堂一条ホール
対象:大学生以上の研究者(英語、通訳なし)
備考:事前登録不要、参加無料
内容:種間相互作用に注目し、島における外来種の影響と管理についての研究を紹介
します。
ハワイ大学のDaehler博士には、植物の侵入について、ニュージーランド環境保護
のBroome博士には、最先端のネズミ類管理についてご紹介いただきます。
国内からは、小笠原諸島外来種グリーンアノールやニューギニアヤリガタリクウズ
ムシ等が昆虫や植物、マイマイに与える影響を紹介します。
ポスター発表では、小笠原・沖縄諸島の事例を中心に、島嶼生態系、外来種問題に関
する発表を行います。

■講演

  1. "Invasive plants on islands: Global patterns and impacts"

 Daehler, C. C.(ハワイ大)

  1. “Impacts of invasive alien species on pollination system of Ogasawara”

 安部哲人(森林総研

  1. “An overview of rodent management to protect biodiversity in New

Zealand”
 Broome, K. and Cromarty, P.(NZ環境保護局)

  1. “Impacts of invasive alien species on the indigenous land snail fauna of

the Ogasawara Islands.”
 千葉聡(東北大)

■ポスター発表
場所:東京大学農学部弥生講堂ロビー
時間:12:30〜17:30(コアタイム:14:35〜15:05)

                  • -

『南の島のエイリアン』

日時:12月19日(土) 10:30〜16:00
場所:東京大学農学部1号館2階8番講義室
対象:一般から研究者まで
備考:事前登録不要、参加無料
内容:島の生物は、捕食者や競争者のいない環境で進化してきたため、一般に外来種
の影響に対して脆弱です。
小笠原諸島沖縄諸島の生態系は、ネコやマングース、アカギといった外来種により
大きな影響を受けており、影響緩和のため、さまざまな対策が行われています。
有効な対策のためには、影響や管理に関する研究だけでなく、行政や地域社会との連
携が必要です。
海外の事例を含め、現在行われている対策と、残された課題についての発表、議論を
行います。

■午前の部:「地域社会と生態系保全」10:30〜12:00

  1. 「島の生態系と生物多様性保全:小笠原での教訓」

 可知直毅(首都大)

  1. 「種ごとに異なる外来種問題の入口と出口〜社会的動物であるネコ問題へのアプ

ローチ〜」
 鈴木創・堀越和夫(小笠原自然文化研)

  1. 「沖縄やんばるの森の生態系管理と地域社会」

 小高信彦・佐藤大樹森林総研

■午後の部:「生態系保全のための研究の貢献」13:10〜16:00

  1. 「小笠原の外来種対策と生態系回復に向けて」

 牧野俊一(森林総研

  1. 「グリーンアノールの昆虫群集への影響と個体群管理」

 苅部治紀(神奈川県博)・戸田光彦(自然研)

  1. "Mountain ecosystems: The final frontier for invasions?"

 Daehler, C. C.(ハワイ大)

  1. 「今、そこにある根絶−アカギとクマネズミは本当に根絶できるのか−」

 田中信行(森林総研)・橋本琢磨(自然研)

  1. “An overview of rodent management to protect biodiversity in New

Zealand”
 Broome, K. and Cromarty, P.(NZ環境保護局)
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(以上、転載文)

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す。
 研究部会長  邑井良守イカリ消毒株式会社) murai@ikari.co.jp