研究部会通信4月号

<動物遺物学の部屋>
第7回 獣毛を同定する手法(5)
 獣毛は爪と同じ起源を持つ器官だそうですが、糸のように単純なものではありません。おおまかにいうと表面にキューティクルを持ち、中心には鉛筆の芯のような髄質という構造を持っています。表面と芯との間は皮質と呼ばれます。

図にするとこんな感じ→
 髄質のことを鉛筆の芯のようだといいましたが、実際にはそんな硬い構造をしているわけではありません。多くの動物では、例えていうとスポンジのようにスカスカした構造になっています。そして、そのスカスカ構造の形が動物によってだいぶ違ってくるので、獣毛を同定する一つの重要な特徴になるのです。その他、獣毛全体で髄質がどのくらいの割合を占めているかも特徴になります。どのように形が違うのかって? では、それを生物顕微鏡で見てみましょうか。見るのはとても簡単です。獣毛をスライドグラスというガラス板に載せてグリセリン(薬局で売ってます)を一滴垂らし、その上から薄いガラス板のカバーグラスをさらに載せると透過標本というのものになります。

アズマモグラの獣毛でこの透過標本を作り、200倍くらいの倍率でのぞいてみると・・・→
 真ん中の黒い部分が髄質ですが、なんだか縞模様ですね。これ、髄質が小さな小部屋に分かれていて小部屋の中は空洞なんです。白く抜けているところが空洞の部分ですね。以前、テレビでホッキョクグマの獣毛は真ん中が空洞(ストロー状?)になっていて、それが寒さを防ぐ仕組みになっているという話を聞いたことがあります。私が知る限り、寒くないところに棲んでいる動物でもこのような空洞は普通に見られますし、ニホンジカの獣毛なんかはほとんどスカスカ状態なので曲げるとすぐ折れてしまうほどです。空洞の有無と耐寒性とは、あまり関係がないんじゃないのかなと私は思います。紹介したモグラのような食虫類は小部屋の別れ方が少なくて、獣毛全体で髄質が占める割合も小さいのが特徴なんですが、では他の動物はどうなっている・・・というのはまた次回に。

最後のお言葉です。今回のはちょっと長い・・・。
「旅行者は人間の知られていない山奥の地にはいりこむと、そのつど、野生動物は人間をあまり怖れず、五・六歩の距離のところから不思議そうに眼を見張っていようとするのを見られるだろう。しかし、たちまちのうちにその動物たちは、人間が自分たちのいちばん危険な敵であることを知って、その姿が見えるや否や、飛び去ってしまう。彼らの信頼をとりもどすには、長い時間とたいへんな抑制が必要だ。」 アーネスト・シートン

<いきもの写真館>

 ここでは、特に私たちの身近にいるいきものたちを写真で紹介しています。
第49回はヒカゲチョウです。
そろそろ、雑木林の際でヒラヒラ飛ぶ姿を見かけるんじゃないでしょうか。
名前の通り、日陰に止まっているところをよく見ますね。