研究部会メーリングリスト通信 2019年2月号

研究部会メーリングリスト通信 2019年2月号

 

<生物技術者が見た風景 ~ 雪と渓流とナガレタゴガエル>

 私が大学生だったころ、1980年代のことですが調査のフィールドにしていた東京都桧原村の渓流に不思議なカエルが現れる。それも真冬に、という話を聞きました。

そこで、カエルに詳しい仲間とともに雪積もる極寒の2月に渓流へ見に行ったところ…最初は良くわからなかったんですが、1頭見つけて周りを見るとまあ、いるわいるわ。渓流の石ころに似せた体色のせいで見つけにくかっただけで、実は川底がカエルで埋め尽くされてました。

これがナガレタゴガエルを見た初めてのことでした。流れの早い渓流の最上流部にいて、繁殖期にはほぼ流れに任せて流れてくるので、流れの緩い瀬の底に大群が溜まってました。

このカエル、1978年に東京都の山間部で初めて発見されました。1980年代のその当時はまだ珍しく東京都にしかいないんじゃないか、天然記念物ものか、なんて仲間うちで騒いでいたものです。今では、全国に広く分布する「普通」のカエルだと分かって、あまり大事にされなくなりました。石川県の渓流にもいますよ。私が初めて見た桧原村の渓流(小坂志川)では、その後川沿いに林道が整備されたので数が少なくなったと思います。

 

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ナガレタゴガエルの生息環境

タゴガエルに近い仲間ですが、流れの早い渓流に棲んでいるせいか後足の水かきがとても大きくなってます。繁殖期には皮膚の皮が伸びて、真上から見るとまるでピパ(アマゾン川原産のペット店でよく見るカエル)みたいに見えます。写真は水中でオスがメスに抱きついている(抱接している)ところをとったものです。昔のプリント写真をキャプチャーしたものなので、見にくくてすいません。

 

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ナガレタゴガエル

ナガレタゴガエルで検索すると良い写真がいっぱい出てきますので、もっと見たいならそちらの方を。テレビとかでこのカエルが紹介された際、渓流の中で魚に抱きつき絞め殺してしまうといった話が出たようです。繁殖期には流れてくる全てのものにオスがメスだと勘違いして抱きついちゃうだけで、別に絞め殺そうとしてるわけではありません。実際に小枝を流してみたら、底にいたオスが浮き上がってきて抱きつくのを見ました。目の前で動くものを、餌だと思って何でも食いついちゃうのと同じですね。

 

<生物技術者の事典 ~ ヤマドリ>

キジ目キジ科に属する日本固有種。本州と四国、九州に分布し5亜種に分けられる。そのうちの南九州亜種であるコシジロヤマドリと北九州亜種であるアカヤマドリは環境省RDBで準絶滅危惧種(NT)に指定されている。他の3亜種は本州北部に分布するキタヤマドリ、本州南部に分布するコシアカヤマドリ、四国に分布するシコクヤマドリ。森林の林床を生活圏とするため観察が難しい等の理由により、これら亜種の分布地域は明瞭になっていない。また、狩猟鳥として昔から馴染み深い鳥のわりには生態がよくわかっていない鳥でもある。1970年代以降生息数が激減したため、近年は各地で養殖個体の放鳥事業が行われている。亜種の分布地域が明瞭でないことから、亜種が消滅することが危惧されている。

 

生物技術者のひとりごと:

 ヤマドリとキジを見ていると、種の多様性とか固有の生態系とかいった言葉が最近、急にトレンドになったものなんだなとつくづく思います。

ヤマドリが現在5亜種に分けることができるのは、平野の草原に棲むキジと違って森深くに棲む鳥なので孤立しやすく、狩猟が難しかったからでしょう。キジなんか早いうちに狩猟圧等のせいで数が少なくなり、1930年代からかわりのコウライキジを輸入して一時期バンバン野山に放鳥しちゃいましたからね。

キジもヤマドリと同じく、かつてはキタキジ、トウカイキジ、シマキジ、キュウシュウキジの4亜種に分けられていました。たしか国鳥だったと思いますが、今ではほぼ消滅しているんでしょうね。そのうえに、コウライキジとの交雑も進んでいるという…。

ヤマドリは何とか間に合ったということでしょうか、とりあえず。

 

<いきもの写真館No.95~カキドオシ>

 

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カキドオシ

 さる大きな神社の社叢林を春に歩いていたらみつけました。薄暗い林の中でこの色がすごく目立ってました。傍にはニリンソウも咲いてましたよ。もうすぐ、これらの花にまた出会える時期ですね。カキドオシは漢方薬にもなります。胆汁分泌促進や血糖降下作用があり、胃炎や酸性消化不良などの消化器系疾患にも有効。その他、壊血病の予防と強壮薬、水虫の薬にもなるって…万能薬かしら。

 

<今月のお知らせ>

※過去のイベント紹介のため省略します。

 

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邑井 良守

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