研究部会メーリングリスト通信 2019年4月号
<生物技術者が見た風景 〜 ニホンザル>
私が野生生物調査の面白さに目覚めたのは1975年、東京都桧原村でニホンザルの「渡り」を見たときでした。大学に入って何をしているのかもよく分からないクラブ活動に誘われ、そのまま山奥でテントを張りながら何日も山を駆け回っていた時に出会ったのでした。
このころの奥多摩でのサルは、だいたい一つの群れが一つの急峻な谷の中で生活し、一つの群れが30~50頭くらいで構成されていました。彼らは里には近づかず、全く森の中で得られる餌で生きていたのです。そんな彼らのごちそうの一つが、谷底の川沿いに植えられているハリエンジュ(ニセアカシア)で、花が咲く5月頃には必ずそこに来て、この花を食べているのを見ることができました。
人とは全く接触しない群れなので、観察するのは至難の業でした。何しろ、こちらがサルを見つけるよりも絶対に先に、彼らがこちらを見つけるんですから。そんな彼らの群れの全貌を観察できるチャンスがあるのかというと、ただ一つあったんですよ。常に群れで動いている彼らが林道を渡るときで、これをクラブでは「サルの渡り」と呼んでました。結局、大学の4年間で1回だけこの渡りを目撃することができて、めでたく私は生物調査の泥沼にはまったのでした。
3 枚の写真は、そのときにドキドキしながら撮ったものです。白黒写真であまり鮮明ではありませんがお許しを。当時はもちろんフィルムのカメラで、とっても貧乏学生だったので一番安く買えた「トライX」というISO400の白黒フィルムを使っていました。当然長いレンズも買えなかったので、200ミリのレンズで抜き足差し足で群れに近づいて撮りましたよ。いやー、なつかしいなあ。
1980年代の後半になると彼らは山麓にある畑へ出現し初めて、やがて彼らが作物を荒らす「猿害」が注目されるようになります。それから、山中で彼らに出会うことも少なくなっていきました。今では有害鳥獣駆除などで駆除されることも多くなりましたが、最も北の地に生息している日本の固有種で、世界的に見れば貴重な動物であることに変わりはありません。これからどのように共存していくか、考えていきたいですね。
<生物技術者の事典 〜 埋土種子>
植物の多くは種子をつくり、発芽に適した環境条件が来るまで土壌中に存在する。この種子を埋土種子といい、土壌中にはこれらの種子が多種多量に存在することから土壌シードバンクと呼ぶこともある。埋土種子には良い環境になるとすぐに発芽できる非休眠種子の他に、休眠状態になっていてそれを解除されない限り発芽できない休眠種子がある。休眠種子の中には長期間にわたって生き、大賀ハスのように2000年以上前の土壌中から発見されたが正常に発芽、開花した例もある。埋土種子が土壌中でどのくらい生きているのかについて調べた研究では、植物種にもよるがおおむね15~20年という数字が得られているようである。コナラ林のような天然林の伐採跡地で調べた研究によると、土壌中に見られた埋土種子で最も多い樹木はアカメガシワやヤマグワ等であったという。これらが伐採跡地から最初に芽吹く、いわゆるパイオニア植物である所以である。
生物技術者のひとりごと:私の家は庭付きの一戸建てで割合広い庭があるんですが、新築で買った直後はただの裸地でした。春になると一斉にハルジョオンが出てきてあっという間に草丈の高い草原になりましたね。気になって裸地を少し残して観察していたら、年を追ってタンポポやらオオバコやらのロゼット型の草が増えてきてハルジョオンは姿を消し、最後にはフジも生えてきました。やっぱり順番があるんですね。業者が庭に入れた土によって、最初に出てくる植物も違ってくるんでしょうね、きっと。そのままほっといたらフジに庭を占領されそうになったので、幹が太くなってきたフジを切っておしまいにしました。
<いきもの写真館No.96 ミズバショウ>
今月後半に金沢市の隣町にある石川県森林公園というところに行ってきました。そこで見たミズバショウです。尾瀬とかよりずいぶんと小規模ですが、まだ枯草色の湿地の中でニョキニョキと咲いている状景は、人が全くいない環境ですととても風情がありますね。土曜日だったんですけど。やっぱ、人ごみとは無縁の自然環境っていいわー。
<今月のお知らせ>
※生物技術者連絡会研究部会報 第6号のご案内
平成30年度の第6号ですが、4月に完成して印刷済みです。
次回のニューズレターとともに会員へ郵送する予定ですので、もうしばらくお待ちください。 発行がかなり遅れまして申し訳ありません。
この通信の内容に関する問い合わせは以下にお願いします。
〒921-8033 石川県金沢市寺町1丁目19-19
邑井 良守
※昨年1月より、標記の住所に転居しております。